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スタートアップが理解しておく企業法務の6つの基本 【契約書編】

スタートアップが理解しておく企業法務の6つの基本 【会社設立編】

<講師>

TMI総合法律事務所 神戸オフィス 

弁護士 中西 健太郎氏

昭和50年神戸生まれ神戸育ち。1999年東京大学法学部卒。2000年10月弁護士登録。

20年間東京の大手法律事務所においてM&Aやファイナンス、紛争など多くの企業法務案件をスピード感をもって担当。2020年から三宮で執務開始。

今回、神戸がビジネス拠点、知的拠点としてさらに発展することに寄与できればとの思いから、こちらに登場させて頂きました。

<講師からのメッセージ>

起業する際、対象となるビジネスの内容がどのようなものでも、また、起業者が明確に意識している場合でもそうでない場合でも、ビジネスの根本的なルールを決めているのは法令ですし、さらに、会社は自社が締結した契約に拘束されることになります。

今回は、起業し、リーガルリスクを可能な限り減少させて安定的に会社を成長させていこうとされる方向けに、そうしたリーガル面で意図しない落とし穴を減らせられる様、基本的な法律上の留意事項を確認します。

なお、以下はあくまで一般的な留意事項を簡潔に記載したものとなります。そのため、個別のケースで問題が生じた場合には別途慎重に検討頂くべきことになりますし、以下に述べた以外にもご留意頂くべき事項は多岐にわたりますが、まずは、初期的なご理解の一助となれば幸いです。


<契約書編:目次>

  • ①契約/契約書の意味とは
  • ②作成に際しての留意点
  • ③海外企業との契約における留意事項

◆契約/契約書の意味とは

基本的な部分の確認ですが、人や会社が法的に拘束される根拠の大きな一つが「契約」で(契約責任)、人・会社は、「契約」という約束をすることで、権利を得たり義務を負ったりします。

法律の原則では、意思表示が合致すれば契約は成立することになりますが、その内容を文書化したものが「契約書」ということになります。

このように「契約」によって、法的に、権利を得たり、義務を負ったりすることになるため、契約書の内容は非常に重要な意味を持ちますし、その重要性は相手方との間で紛争にならない段階でも変わりませんし、むしろ、後で紛争になることを防止する意味でも契約の内容が鍵になります。

また、実際に紛争になった場合でも、契約書が重要な証拠になることは改めて言うまでもないかもしれません。

このような契約書ですが、場合によっては約款の形式で締結されることもあるかと思います。そうした約款については、民法にて定める条件を充足すれば、「定型約款」として個別の条項についても合意をしたものとみなされますので、こちらも契約の内容になることになります。

◆作成に際しての留意点

民法は、民事上の基本的ルールを、商法は商取引の基本的なルールを定めた法律で、何も契約書を作成しない場合や、作成しても規定を設けない部分については、民法及び商法の規定が適用されることになります。契約書において、これらと異なる内容を定めることが可能なケースも多いので、契約書を作成する際には、これらの法律の通りで良いか、それとは異なるルールを定めたり、法律の定めだけでは当事者間のルールとして明確でない部分について契約で規定したりする必要はないか等を踏まえて、作成していくこととなります。

これらの民法、商法とは別に、例えば、訪問販売や通信販売を行う場合には特定商取引に関する法律が、消費者契約を締結する場合には消費者契約法が適用されるなど、業態によっては特別の法律が適用される場合もありますので、留意が必要です。

契約書は、先述のような重要性をもちますので、記載内容は可能な限り明確なものにするのが望ましく、当事者の権利(相手方当事者にとっては義務ということになります。)は可能な限り具体的に記載し、さらに、一つの契約書の中でも条項間の整合性や平仄が取れているか、他の契約書との間でも齟齬がないかなども検討するのが望ましいといえます。

契約書は、基本的には将来に向けた権利及び義務を記載するため、検討に際しては、何か不測の事態が起きないよう、起きる可能性のある事象についてイメージを働かせるのも重要かもしれません。

このようにして締結した契約書ですが、支払の条件のほか、重要な権利が期間満了により終了していないか、何か違反や債務不履行などを生じさせていないかなど、締結の後においても内容を管理、把握しておくことも重要といえます。

◆海外企業との契約における留意事項

海外の取引先との契約については、その契約が日本法に従って解釈されることになるか、当該取引先の国の法律によって解釈されるのかによって結論が異なり得るため、いずれの国の法律を準拠法とするかは重要です。準拠法をいずれの国のものとするかは当事者の選択によるのが原則なので、契約書において規定する必要度が高いことになります。その際は、日本法を選択できればよいが、その点で相手方との交渉になった場合に、中間的な解決を図ることは難しいのも確かです。

また、合意管轄裁判所についても規定しておくのが望ましいですが、準拠法とした国と異なる国の裁判所を合意管轄裁判所とするのは避けた方が望ましいことが多いです。

さらに、海外の取引先との契約については、翻訳が作成されることもあるかと思いますが、翻訳の精度の問題もあり、両者に齟齬が生じた場合にいずれの言語を正とするのか、言語の選択も重要な要素となります。