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「3つの感情」で神戸を変える、アドリブワークスのインキュベーションプログラム

Triven

 神戸市内でのスタートアップ創出や育成を促進するため、市内に活動拠点を設け、市内活動拠点を軸として分野特化型のインキュベーション事業を継続的に実施し、市内での起業、本社登記を行うスタートアップを生み出す事業者に対して、事業実施に係る経費の一部を最長3年間の支援を行います

(※)本事業においては、「インキュベーション事業」を「起業や成長を望む人材・スタート

アップを①全国から集め、②拠点(神戸)で育て、③市場に送り出す事業」と定義しています

令和5年度より、新たに事業者認定された株式会社アドリブワークス代表の山岡氏へインタビューを行い、本事業を開始した経緯や、今後の取り組みについて伺いました。

<インタビューイー>

株式会社アドリブワークス

代表取締役 CEO 山岡 健人氏

愛媛県今治市出身。大学を卒業後、IT業界でキャリアを築き、2018年に株式会社アドリブワークスを創業。「スタートアップ土壌にアイデアの種を植える続ける耕作者企業」を目指し、誰もが気軽にアイデアを投稿し、仲間を集め、育てるための起業家専用マッチングサイト『triven(トリブン)』を開発。また、全国の自治体・企業による官民連携スタートアップスタジオ『NOROSIスタートアップハブ』を主催。未来への夢を持った人たちが、自由な生き方を手にできる社会の実現を目指して活動を続けている。


「日本の活性化」と「自己実現のサポート」

⁻アドリブワークスが取り組んでいる事業について教えてください

山岡氏(以下、山岡):現在は2つの事業に取り組んでおります。1つ目が起業家同士のマッチングプラットフォーム事業で「triven®️(トリブン)」というサービスを運営しており、ここではまだ起業をしていない起業家予備軍の方々が、自分のビジネスアイデアを、同じ起業家予備軍の会員に投げかけることができます。アイデアを自分の中に留めておくのではなく、一度世の中の目にさらすことによって市場の声を確認することができますし、さらには共感してくれたチャレンジャー同士で手を取り合い、共同で取り組むような事例も出てきています。立ち上げ以降、順調に会員が増えており、現在では5,000名程度の起業を目指す方々に登録いただいています。2つ目は、「NOROSIスタートアップハブ」という事業です。これはビジネスの「一歩目」を確実に踏み出すためのインフラ提供事業です。起業家が持つアイデアの中には、すぐに顧客がつくもの、資金調達ができるものがある一方で、多くものはそうではありません。しかもソーシャルグッドなアイデアほど前に進みづらかったりしています。私たちはそういったアイデアもしっかりと形にして、社会実装されるようにしたいと思っており、ビジネスとして確立させるために必要な人、資金、情報、機会をスタートアップスタジオ形式で起業家に提供しています。

⁻起業家個人の「自己実現」にフォーカスされた事業展開をされているのですね

山岡:はい、その観点は非常に大事にしているところです。私は常々、どのような方も、心のうちにはアイデアを秘めていて、人生をかけて取り組むライフワークがあると思っています。“好奇心”は、人間だけが持てる特別な感情です。仮に現在どこかの企業で就労されていたとしても、何か別のことに取り組みたいと思うことがあっても良いし、想いが芽生えたのであればすぐに取り掛かれる方が良いですよね。世の中では生成AIが流行し始めていますが、技術の進化が進めば進むほど、人間が従来行ってきた仕事を代替することができるようになってきています。技術の進歩が進むほど、その反対側では「人がやるべきこと」の定義が開始され、多くの人が「何のために働くのか」という部分に迷いを持ち始めていると感じています。人が人として生きるためにどうするべきなのか、どうあるべきかを真剣に見直さなきゃいけない時代がやってきたということです。こんな時代だからこそ、「自己実現のサポート」が非常に重要だと捉えており、現在の事業展開に至っています。

⁻来るべき社会へ向けた事業をされていますが、山岡さんもそのうちの一人だったのですね

山岡:そうですね。私自身、東京で10数年会社勤めをしておりましたが、多くの人が毎日疲れた顔で満員電車に乗り、話を聞けば、「会社を辞めて地元に帰りたい」と話す人がたくさんいるという現状に触れてきました。「好きな場所で好きな仕事ができる人」の割合が、日本では極端に少ないのではないかと思い始めるようになり、もしそうなのであれば、本当にやりたいことを自分自身で生み出すことができる世の中にすることができれば、もっと日本は輝くのではないかと思い、私自身がやりたいことをやるために起業をしております。自分自身が起業をして、複数の事業を展開しているという点においては、当事者目線で起業家予備軍の方々へ向けた支援を、説得力がある状態で行えるのではないかと思っています。

Trivenコミュニティ

スタートアップがスタートアップとしていられる期間

⁻実際に起業を経験した方が支援してくれるのは、参加者にとっても心強いですね

山岡:そう思っていただけると嬉しいです。私自身、現在起業をして事業を展開しておりますが、私の学生時代は今よりもっと「大手志向」が強く、良い大学に入って良い企業に入ることが正しいこととされていたように思います。今ほどスタートアップに対する世の中の認知もありませんでした。仲間を集めるために、様々な人に声をかけてみましたが、全く響かない。今以上に起業家に対して冷たい時代を経験していることで、対処方法を伝えることもできると思いますし、寄り添うこともできると思っています。起業初期は苦しい状況が続きますが、この局面を乗り切れるようなサポートを行いたいと思っていますし、こういった状況に直面しているということこそが社会的に意味があることをしていると思います。

⁻「苦しい状況」が持つ意味をもう少し具体的に教えてください

山岡:スタートアップには「スタートアップとしていられる期間」があると思っています。これはつまり「世間からは価値がない、儲からないと思われている期間」のことです。未来には必ず必要とされる時が来ると、自分だけが価値を信じていられる“その間”に、水面下で実績を積み重ね、世に価値が認知されたタイミングで大きく花開かせる必要があります。一方で、今すでに価値が認知されていて、サービスに対して肯定的な意見が溢れている場合、そういったものは大企業がしっかりと資本投入して、多くの人に価値が行き渡るほうが世の中的に良いはずです。スタートアップは新たな価値の創造にフォーカスをしていくべきで、苦しい状況に直面していることこそ「自分が当事者としてやるべきこと」と言えるのではないでしょうか。特に地方で事業を立ち上げるということには非常にポテンシャルを感じていて、地方には首都圏で当たり前のようにあるものが、まだなかったりします。新たな価値観を理解してもらうことには時間と労力が必要となりますが、ビジネスチャンスがたくさん眠っていると思います。

⁻なるほど、地方での起業はビハインドとならないのでしょうか

山岡:私自身、神戸で事業を行っていますが、ビハインドに感じることはありません。むしろ良いことの方が多く、コスト面においては、首都圏と比較すると、かなり安価に抑えられていると思いますし、事業面でもスタートアップエコシステムのパートナーとの距離がとても近いため、なにかしようと思ったときにすぐお声がけできることは良いことだと感じています。首都圏では日々たくさんのスタートアップが生まれていますが、地方ではまだ数がそれほど多くない為、注目されやすいということもメリットになると思います。もちろん事業や、人によって求めるものが変わってくると思いますので、どちらが良いかというつもりはありません。しかしながら、地方での起業にはこのようなメリットもたくさんあり、また神戸は政令指定都市ということもあり、マーケットもしっかりしている分さらにスタートアップにとって優れた環境が整っていると感じています。

NOROSHIスタートアップハブ

起業家を「支援」するのではなく、対等な立場に立ちたい

⁻インキュベーション事業者として意識していることはあるのでしょうか

山岡:立場の違いを作らないことです。教える・教えられる、受注する・発注する、施す・施される、そういった上下の関係からは、本当の意味での信頼関係は生まれにくいと考えています。シンプルに言えば、偉ぶらない。とにかくこれは意識していますね。起業に際しては、冒頭にお話しした「好奇心」に加えて、自分にだってできる!と思える「嫉妬」そして、なんでこんな世の中になっているんだ!という「怒り」、この3つの感情がとても重要だと思っています。ですが、これらは起業予備軍の方々にとって心のうちに留めておきたいものである場合が多く、だからこそ私たちの目線が揃ってないと打ち明けたいと思ってもらえませんし、正しく伝わってきません。昨今、メンタリングやティーチングといった様々な支援が起業家に対して行われていますが、早く起業したからと言って、適切なアドバイスができるとは限らないですし、偉いわけでもありません。100%正しい方向に導けるわけではないのであれば、私は個々の起業家を真にリスペクトした上で、一緒に頭を悩ませ、前に進みたいと考えています。個人的には「支援」という言葉もあまり使いたくないと思っています。好奇心・嫉妬・怒りという個人的な価値観に紐づく、内発的動機を大事にしていきたいと思っているからこそ、起業家個人の「自己実現」ができるよう、ゴールまでの道筋の解像度を上げるために伴走するのがアドリブワークスだと思っています。

⁻本人の熱が冷めてしまった場合はどうされるのでしょうか

山岡:個人の感情は無理やり焚きつけるものではないと思っています。みなさん、起業家である前に人ですので、気分が乗らなくなることもあると思いますし、やっぱりこの事業はやめておこうと思う瞬間があって当然だと思います。むしろ自分が信じられないものを惰性で続けていることの方が問題だと思うので、我々は本人が思い立った時にいつでも伴走できるよう、「NOROSIスタートアップハブ」は期間限定のプログラムではなく、常に開放されたプログラムにしており、いつでも参加可能にしています。我々のプログラムの強みは、「ビジネスの一歩目を圧倒的なスピードで踏み出せること」です。いざ起業しようと思ってから法人化するまでの間というのは、やらなければならないことが決まっており、それらにスムーズに取り掛かれるように一定の型として落とし込むことができています。そのため、我々のプログラムにアイデアを持ってきていただければ、誰でも簡単にスタートラインに立つための準備が行えます。本人の熱が冷めてしまったとしても、またやりたいと思ったタイミングで、改めてこのプログラムに参加いただければ良いと思っています。

⁻最後の質問です、これまでの実績として事業が立ち上げられる人材にはどのような共通点がありましたか

山岡:基本的には我々のプログラムでは入会制限を設けていない為、どんな人でも参加できるようになっています。多種多様な人で溢れている中で、事業が立ち上がっている人というのはやはり「熱量の源泉」があり、揺るがないと感じます。先ほども申し上げたように、「スタートアップとしていられる期間」には、基本的には冷たい対応をされることがほとんどで、ひどいときには叩かれさえします。こんなどうしようもない状況だとしても、自分が提供しようとしている価値を信じきれる「礎」みたいものがある人は最終的に事業をちゃんと軌道に乗せていますね。目標は大きければ大きいほど、達成までの道のりは長くなります。その間、走り続けられる「熱量」や「信念」があれば、きっと何が起ころうともやり切れるのだろうと思います。逆に私たちの存在意義は、多くの起業家の「目標が達成される」ことですので、今年度も、神戸市が多くの方の「前向きなチャレンジ」で満ちるようなプログラム運営をしていきます。

イベント開催の様子

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NOROSIスタートアップハブ(スタートアップスタジオ)